脂肪性肝疾患 MASLDとMASH
飽食の時代ともいわれる現在の次の問題は脂肪性肝疾患です。アルコール摂取がエタノール換算で男性1日30グラム、女性で20グラム以上摂取がある場合は、アルコール関連肝疾患として区別されます。腹部超音波検査やCT検査で脂肪肝が認められ、血液生化学検査にてALTが30以上でBMIは23以上、腹囲が基準値を超え2型糖尿病、高血圧、脂質異常症がある状態は、治療中でコントロールされているかを問わず、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)と診断されます。この基準にあてはめると世界の人口の約25%がMASLDに当てはまります。
20~30年前までは、脂肪肝があるからと言って特に治療の対象にはなりませんでした。若年者の脂肪肝患者が増えていく経過の中で、肝細胞の中に脂肪が沈着するだけでなく、持続性の炎症が続き線維化が進み、ウイルス肝炎と同様に慢性肝炎から肝硬変、そして肝細胞がんを発症する症例も認められるようになりました。
その頻度はというと、前述のMASLDの中には、炎症や線維化を伴った無症状の代謝機能障害性脂肪肝炎(MASH)が含まれます。20年経過のMASLDのうち5%が無症状の代償性肝硬変に進みます。さらに5~10年で非代償性肝硬変に進むのは、その半数。その1~5年で肝関連死に至るのは1ないし2%になります。現在の世界の総人口は82億人とすると、MASLDはその25%で21億人、肝関連疾患で亡くなるのは、その1ないし2%で2,000万人から4,000万人です。これを静岡県にあてはめますと、現在の人口は約360万人です
。MASLDは90万人となり、肝関連死は900人となります。これは令和4年の静岡県の肝関連疾患で亡くなられた方911人に合致する結果でした。
MASLDからMASH、そして肝硬変、肝細胞がんへの進展を防ぐことが大切になります。そのためには炎症、線維化を伴ったMASHを早期に見出すことが重要になります。本来は肝臓の一部を切除し、顕微鏡検査にて炎症、線維化の有無を確認するのが正確ですが、実際的ではありません。今本院では腹部超音波検査の際に測定する超音波エラストグラフィー、血液生化学検査でわかる肝臓の線維化マーカーであるMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)や肝機能、血小板数、年齢から算出されるFIB-4 Indexを用いて経過をみます。
線維化を促進される因子を考える上で、非ウイルス肝炎患者の肝細胞がんの患者さんの背景をみると、金沢大学からの報告ですが、重複はありますが、アルコールと糖尿病が56%、高血圧39%、肥満37%と代謝関連疾患の合併がみられています。この中では特に糖尿病が注目されます。2型糖尿病の実に63%にMASLDの合併が見られたのです。糖尿病の方には特に留意して肝の線維化を見ていく必要があります。線維化の進展を防ぐためにはヘモグロビンA1cを7以下に保つことが最重要と言われています。
次の問題は心血管に与える影響です。脂肪肝から分泌されるヘパトカインという物質が、運動によって筋肉が獲得するいろいろな利益を無効にし、動脈硬化を引き起こして、さらに進展させるということで、心血管イベントを惹起することが分かってきました。
さらに腎臓においても同様です。慢性腎臓病(CKD)はMASLDと深く関係を持っています。一般人に比し発症頻度は2倍を超えています。近年心血管(C)と腎臓(K)と代謝機能障害(M)の相互作用にて表現される疾患軍に対し、CKM症候群という概念が提唱されています。
MASLDから肝関連疾患で亡くなる方は100人のうち2人だとすると、あとの98人は他の疾患で亡くなられています。一番多いのはやはり心血管疾患で、ついで肝臓以外のがん、大腸がんや乳がんです。肝関連疾患だけでなく定期的な全身の健診が必要です。
現在MASLD、MASHを治療する薬剤はありません。まずは糖尿病、高血圧、脂質異常症などの合併疾患の治療を行います。特に糖尿病です。インスリン抵抗性を介して相互に病態を進行悪化させます。まずはヘモグロビンA1c 7以下を目指します。そのうえで日常生活の改善です。バランスのとれた食事、適度の運動を行い、肥満の方は体重減少を図ります。ガイドラインからは7%の体重減少が推奨されています。肝臓内の脂肪量の変化だけでなく、変性や炎症も抑えます。いかにして7%の減量を無理なく行い、それを維持し続けるかということが、今後の課題になると思われます。肝臓病の進行に気を配るだけでなく、心血管系疾患、慢性腎臓病に加えて肝臓以外の他部位の発がんにも留意した全身のマネージメントが必要となるでしょう。
【参考】
- 1)令和5年度静岡県肝炎医療コーディネーター養成研修会資料集
- 2)日本臨床内科医会会誌Vol40 21-29,202
国立病院機構高崎総合医療センター 柿崎暁 - 3)日本臨床内科医会「かかりつけ医のためのWEB講座」
1,2024.7.30 佐賀医科大学 高橋宏和教授
2,2024.10.23 武蔵野赤十字病院院長 黒崎雅之院長
3,2025.3.27 佐賀医科大学 高橋宏和教授
4,2025.7.30 金沢大学 山下太郎教授 - 4)最新医学Vol69 1848-1853 広島大学 兵庫秀幸講師他

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